灯台から下層を行き交う人々を眺めていたら急に視界が暗転した。冷たい何かが俺の顔を、目を覆っているらしい。
「もう五回目なんでしょ?」
声の主はだった。このこはなんでこんなに冷たい手をしているんだろう?
「ミカンちゃんも手伝ってたし私もすこし手伝っちゃった、復旧作業」
ああ、だからこんなに凍えているんだね。12月の寒気はナギサといえど見に凍みるものがあるから…
「電力会社のヒトたちすっごい怒ってたよ?」
「彼らだけじゃないだろう」
「……………街の人も」
「怒らせておけばいいさ」
開口早々こんなことをのたまう俺に向っては大仰に溜め息をついてみせる。彼女の吐いた息は俺の耳の神経を無駄に昂ぶらせた。
「…前から思ってたんだけどさ、デンジさんって…あの、地に足着いてないよね」
「………」
「周りの人より一階層分浮いてると言いますか」
「…電磁浮遊「おもしろくない」
最後の二文字を強調して彼女はもう一度大きな溜め息をついた。視界が明るくなったと思った次の瞬間、彼女の形のいい両の目が俺を覗き込んでいた。
「私さぁ、一応心配してあげてるんだよ?余計なお世話かもしれないけれど、このまま目を離したらその間にデンジさんが飛んでいっちゃいそうで…風船か何かみたいに」
どうやら本気で言っていたらしく、俺がくすっと笑うとの頬にさっと赤みが差した。
「その例えで言うと、俺が風船ではそれを掴んで地上に立ってくれてるってことになるな…という重力を失ったら、俺は空の彼方へと消滅する」
告白まがいの台詞を最後まで言い切るか言い切らないかのうちに俺はを目を見ないで抱き寄せる。久々に火照った頬を見たら君は何て言うだろう?彼女は少し震えて、直にその暖かさが伝わってきた。よかった、凍えているのは手先だけなんだね。
「実は君が来るのを待っていたんだ、地上に降りる為に。さぁ、あとはもう君が好きなように僕を導いてくれ…そうだな、復旧作業も君となら悪くなさそうだ」
GRAVITY