「雨は涙の粒、かぁ」
「どうしたの?急に」
「そんな綺麗な話じゃないなあって思ったんですよ」
しとしとと降り続く雨を見ながら、毛布にすっぽり包まったは唐突にそう言った。十二月の雨は凍えるような温度で、僕らを家の中に押し込めていた。彼女は外を自由に歩き回ることが出来ないからか、今日はどこかふて腐れて見えた。
「コーヒー飲む?」
「飲めない」
「…そうだった、ごめんな」
「……今日なんかやけにひっかかりませんか?ゲンさん」
「そう?」
がとげとげしているからひっかかるんだろう、と言おうかとも思ったがそれはぐっと飲みこんだ。確証はないけれど、僕には何故彼女が不安定なのか分かるような気がしたからで、しかもそれは僕の生半可な言葉では改善されないのだろう。だからここは敢えて知らないふりをしよう。コーヒーの件のジャブで彼女の神経の緊張をより高めてしまったことだし(もちろんわざと訊いたのだけど)触らぬ神に祟りなし、だ。
書き物をする僕の後ろでまたもパリパリという音がして、振り向くと散乱した飴の包み紙の真ん中に座っているが目に入った。甘い香りのする彼女の手には今しがた剥かれた薄紫の包み紙があった。目に見えるストレスの形が色とりどりの飴の包み紙とはいかにも甘党の彼女らしい、と僕は思わず微笑んでしまった。彼女の「なんなのよ」という視線がこちらを射ているのに気付いて僕は再び前を向く。
机の上で遊んでいたリオルのあくびで我に返り、僕は時計を見た。無機質なデジタルの数字は23と11をその盤に映していた。それは平坦な、空の色さえも変わらない一日だった。空からは相変わらず銀の糸が滴り落ちていた。後ろを振り返ると、は毛布に包まったまま横になって寝息を立てていた。待つ事に疲れたのか、眠っているその顔はあまり嬉しそうに見えなかった。ごめんな、でもぼくは祈る事しかできないんだよ。彼女にそう囁いて僕は隣室に向った。
もとよりミオは寒暖の差が激しいシンオウでも暖かいほうだ。彼女の住むフタバも同様で、北の気候を知らない彼女が一途にそれを待っている気持ちは僕には分かる。だから、たとえば一緒にキッサキに行こうとか、そういうことは本当に無粋な発言であって飽くまで僕らはここでそれを待たないといけない―そういうことだろう、?そして今日は何より―――
夜半近くに急に冷え込んで、僕は震えながら目を覚ました。凍えていた。
机上に突っ伏して寝ていて毛布を取ろうと立ち上がった僕を、まるで聾になってしまったかのような不思議な感覚が襲った。
ふと視界に入ったの寝顔が頭の中に思考の連鎖を起こし、首の筋を痛めるような勢いで(現に痛めた)僕は窓の外を見た―
「…ん…」
ガラスなんかよりずっとずっと儚いそれをそっと掌にのせ、の瞼に落とす。部屋を横切る間にそれは無情にも彼女の厭う雨の粒と同じ形状になってしまっていた。むくりと彼女が起き上がる。
「、」
柔らかく呼びかける。彼女の目には、降りしきるそれと僕が両方しっかり入っていることを願おう。眠気と突然のそれの来訪で驚く彼女の耳元で囁く。
White Christmas,
my sweetie