自分が何者であるかは自身にはわからないようにできているらしい。僕の場合、子供と大人の中間と世間一般で言われる年頃になるころからそれはますますわからなくなった。街で出会った、とある地方(名前は敢えて明記しない)から来たという老人に跪かれた。絵本で僕を見たという子供にあった。そのスジの人から、コスプレをしているのかと訊かれた。この間鋼鉄島に行った時に知り合った女の子なんかは、僕と最初に目が合った途端一目でそれと解るぐらいの驚愕の表情を浮かべた。彼女の目は、タッグバトルの際僕が何気なく出したルカリオを写すと更に大きく見開かれた。なんだっていうんだ、まったく。
僕の中の記憶で一番古いものは、件の鋼鉄島でヒョウタくんを追い回して遊んでいた頃のものだ。両親や保護者の記憶がない僕を可愛がってくれたのはミオのトウガンさんとか、作業員のおっちゃん達だった。彼らは僕に対して実の息子にするみたいに接してくれたし、ヒョウタくんもいじり甲斐のある愛らしい子で、(「ゲンってば、ちょ…やめてえええ!めがねをかえしてえええ!」)僕は何事をも気にせず遊びまわっていた。その頃の僕はごく普通の男の子だった。いや、もしかするとその頃から前述のようなことを言ったりやったりする人々が僕の周りにいたのかもしれない、僕が気付かなかっただけで。
僕はその後ただ成長した。背が伸びて、顔つきが少し変わった。僕を前述のように変な風に扱う人々が少なからず出てきた後、僕は子供のときより少しばかりものを考えるようになった脳で、僕は何者なのかと考えるようになった。その頃から今に至るまで、僕は見聞を広げるための放浪の旅に出っ放し、という訳だ。僕はだんだん賢くなり、街角で僕を見て不思議そうな、または驚いた顔をした人々が繰り出してくる質問に、適度に的をずらして答えられるようになった。簡単だ。あなたは…と訊かれたら、鋼鉄島で修行をよくする暇人です、と答えれば大体の場合うまくいった、人々は尋ねる前にもまして不思議な顔をしたが。
この地方のリーグチャンピオンにも会った。彼女は若くして最強の座に上り詰めた傍ら、全てのポケモンを見て回るという中々ハードな任務を持っていた。神話を調べているという彼女は、僕と、物心ついたときからずっと僕の隣にいたルカリオを見て静かに微笑んだ。僕はとっさに、「僕とルカリオは何ていうか…波長がぴったり合うんです」と言った。それを聞いた彼女は僕らに向かって、とある名前を挙げ、その者のご加護が僕らにあるように、と祈った。その名前は僕が何度も耳にしてきたものであったけれど、今はもう僕の意識の外にある。
…身の上話が長くなってしまった。この何年かの総括として僕が出した結論はと言えば、一つを除いてあまり進歩のないものだった。僕は所謂根無し草ってやつだし、両親のことも知らない。ましてや彼ら以前の系譜なんてどこ吹く風だ。自分が誰の子孫であったとしても、僕にとってそれは失われた過去であり、またそれへの僕の興味は、先々週の天気への興味と同じぐらいしかない。(僕は今を生きる人間だ。)だから僕は発想を逆転することにした。僕が何者なのか自分自身で解るのではなく、他の−そう、例えば僕の大切な友達にとって、僕は何かであるはずだ。彼に解っていてもらえるなら、それが僕の本望だ。
(彼の蒼い波導が私のところによせては引き、またよせる。私は先祖の記憶を辿る。主君の記憶、師弟関係。けれど敢えて目を瞑り私はこう囁こう。What’s up, my friend?)