ふたりはともだち ?


如何せん情けない話だ。いい年にもなって彼女のひとつも作らないで、リーグの狭い部屋でチャンピオンを目指す健全な少年少女の為に安月給で働いている俺、大人の事情で使用可能な炎ポケモンはわずか2匹のみで、これじゃあそのうち俺の心の灯も消えるわな。

極めつけはここのところ俺が通いつめている先だ。可愛い子が待っていてくれているならともかく、実際俺を待っているのは(そもそも「待っている」という表現が不適切だ)2.5枚目の不良男だ。社会に出れば後ろの0.5は消えるのに、彼は、残念ながらそれができずに一日中改造されたジムで電気の配線を弄繰り回している様な奴だ。言っておくが、俺が好きで奴のケツを追い回しているのではなく、奴には俺が居なくなると、世間との関わりというものが一切なくなってしまうのだ−だから俺は単純に奴の行く末を気にしてやっているだけだ。優しい俺、彼氏にするには持って来いだろう?だからこんな奴にいつまでも構っているわけにはいかないのさ。

しかし奴は未だにを相手に訳のわからないことばっかり喋り続けているので俺はよく雛の遅すぎる巣立ちを見守る親鳥のような気分になる。いや切実に。奴は実は数週間前にジムを訪れた女の子に負けていて、それでジムリーダーとしての自覚と闘争心とかがすこしは芽生えたかと一時俺は期待した。実際そのようにも見えた。しかし何と俺自身の怠慢もあり俺もその子に負けたことを知ると奴の生活は元に戻った。1ヶ月に多くて3回、少なくとも1回は街を停電させ、住民の顰蹙を買い、渚に突っ立っている女の事を少し気にしつつ(と俺が思っているだけで実際奴は俺が彼女の話題を振っても悲しいかなミジンコほどの関心しか示さない。それが良い兆候であることを願おう)ジムの仕掛けの配線をいじるという工程が繰り返されている訳だ。良くないね、非常に良くない。奴の勢いは感じない、熱い思いも伝わってこない。


けれどよく考えると、ジムリーダーというある意味トレーナー達の手本とも言える存在がここまで好き勝手に振舞えるというのもいい度胸なのかもな、と思えてくるから不思議不思議。俺なんか、まあ部屋を勝手に抜け出すぐらいでそんな大した違反みたいなのは犯した事はないし。いや、犯せないんだ。自由と規則にがんじがらめだ。それを思うと、奴のジム改造とかストなんていうのは限られた中での精一杯のアウトローなんだろうな…。奴のこういうところがあるから、俺は奴から目が離せないのかも。これは何だ、ひょっとして男の友情ってやつか、それとも母性本能か。


(いやいや、何勝手に喋ってるんだデンジ…ご丁寧に俺のモノローグを装ってまで…!)